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続・すみっこの記

富山生まれ下請けIT育ちのフリーライターが布団の中からお送りします

そして「わたし」になった #headquake5

「すみっこの記」廃墟

R-style » 頭をガツンとやられた5冊の本 #headquake5
その中には、これまでの物の見方を一変させてしまったような、そんなインパクトを持った本も加えることができるでしょう。 あまりも強く頭を叩かれたため、これまで自分が「正面」だと思っていた方向を見失ってし ...

@さんの記事を受けて、私も自分が「頭をガツンとやられた」本を思い出してみようと思いました。

私は影響を受けやすく、かつのめり込みやすい性格をしています。幼い頃から影響力の強い本に出会う度、ピンボールで釘に弾かれるビー玉のように、あるいはスイングバイで軌道を修正される宇宙船のようにあちらへこちらへと視線の向き先を変えられてきました。

そうして出会った本たちが、今の「わたし」を作っています。今の「わたし」に至る軌道を描かせた、強い引力を持った本を紹介します。

強い引力を持った本たち

夜空と神々に思いをはせた子ども

星と伝説 (少年少女ものがたり百科 4)

星と伝説 (少年少女ものがたり百科 4)

小学校に上がり簡単な漢字が読めるようになると、母は私へのプレゼントに本を選ぶようになりました。彼女が一体何を思っていずれ「わたし」となる子どもに、星とそれにまつわる民話、神話、伝説を記した本を渡したのかは分かりません。

しかし、この本は後の「わたし」の礎となる要素を多く含んでいました。ギリシャ神話に触れたことで、子どもは世界各地に様々な伝承が存在することを知りました。電灯の明かりが無かった時代、人々が黒い外宇宙にさまざまな思いをめぐらせたということも。

この本の中には文化的多様性を示す神話や民話だけでなく、科学的な視点を持つことの重要性を説く伝承も書かれていました。それがいずれ子どもの「自然界への興味」に繋がっていきます。

少女は因果応報と不条理を知る

こどものための世界の名作―グリム・イソップ・アンデルセン ベスト30話 (別冊家庭画報)

こどものための世界の名作―グリム・イソップ・アンデルセン ベスト30話 (別冊家庭画報)

イソップが後世に遺した童話は教訓的側面の強いものでした。そこで繰り返し説かれるのが「因果応報」というこの世の理です。

また、グリム兄弟が記した童話はドイツの伝承を踏み台にしています。そこにはかの土地で暮らしてきた人々が口承で受け継いできた教訓と歴史があります。

アンデルセンの創作童話にはこの世の不条理を描いたものが多くあります。泡となって消えてしまう人魚姫に、紙人形のバレリーナに恋焦がれた錫の兵隊に、少女は初めて狂おしくも儚い「恋」というものを知りました。

この本はとりわけ「わたし」に強い影響を与えましたし、「わたし」もこの本に強い愛着を抱いていました。実家を出るときも、東京に出るときも持ってきたために、この本はすっかり擦り切れています。

小説の入り口

三毛猫ホームズの騎士道 (光文社文庫)

三毛猫ホームズの騎士道 (光文社文庫)

少女が後に身を深く沈めることになる「小説」の世界の入り口は、母が大学生時代に読んで自分の実家の本棚に残していた、ドイツの古城に閉じ込められた刑事を主人公にした推理小説でした。

捜査一課の刑事と賢い猫、そして古城という舞台の取り合わせに「こんな物語が許されるのか!」と衝撃を受けました。母の里帰りについていった少女は一心不乱にこれを読み耽り、家路につく頃には母の本棚から「三毛猫ホームズ」シリーズを丸ごと運び出していました。

赤川次郎の作品では、『殺人よ、こんにちは』からも強い影響を受けました。クライマックスの――いい意味での――読後感の悪さは「わたし」が常に目指すものであります。

ライトノベルとの出会い

少女がジュブナイルノベル――後に「ライトノベル」というジャンルが確立される――に初めて出会ったのは、彼女の友人が表紙買いしたこの短編集でした。

「美しさ」を「力」だと言い切る美姫たち。彼女たちが背負ってきた、そして背負っていくものの重さをライトなタッチのコメディとして描くという手法は、少女の全く知らないものでした。少女はその後、全ての物語が完結するまでこのシリーズを追い求めることになります。

上で挙げた3冊とこの本が違うところは、この本が「少女自身が望んで手にした本」だったということです。母の部屋で見つけた推理小説が開いたドアを潜り抜けた少女は、確実に「小説」という世界に自分の身の置き場所を探すようになっています。

そして忘れてならないのは、コバルト文庫の巻末には「ノベル大賞」「コバルト大賞」の募集要項が掲載されているということです。そのとき少女は「自分も評価を受ければ読まれる側になれるのだ」ということを知ります。

人生は、短い。

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

綿谷りさの芥川賞受賞は、高校生になった少女にとって非常に悔しい、妬ましい出来事でした。内容そのものは傑出しているというわけではない、しかしその若さでこれだけのものを世に送り出し、認められた女がいるということ。その事実に少女は歯噛みし、地団太を踏みました。

金原ひとみの『蛇にピアス』もそうですが、自分とほとんど年の違わない女性が文壇に登り、持て囃されるという光景は未だ憧れに浸っていた少女を大いに打ちのめしました。

「若人」でいられる時間の何と短いことか。そして、才能は決してどこかから降ってくるわけでもないという事実。西原理恵子のいう、「自分は何者でもないただもの」という言葉を噛み締めた時期でした。

そして少女は「わたし」になった

ここまででひとりの子どもが少女になり、「わたし」になるまでに強い影響を与えた本を5冊挙げましたが、それだけでは少々、「わたし」という存在を物語るには足りないようです。小学館の『21世紀こども百科』がなくては、「わたし」は「わたし」にならなかったでしょう。

21世紀こども百科 大図解 (WORLD WATCH)

21世紀こども百科 大図解 (WORLD WATCH)

生物学、医学、民俗学、宇宙工学、建築学……母が子どもに与えたこの図鑑は、「図鑑狂」であった彼女にとどめをさしたようなものです。あらゆる知識がそこにありました。この他にも10冊前後の図鑑を丸暗記していたおかげで、小学校で習う内容はほとんど「予習済み」の状態でした。

 

図鑑が知識を受け入れる素地を作った。神話が文化的多様性を教えた。童話が恋を目覚めさせ、推理小説が小説への入り口を開いた。ライトノベルが「書きたい」という欲望を呼び覚まし、芥川受賞作が「多くの人に読まれたい」という切望を植えつけた。

そして、子どもは少女となり、少女は「わたし」になったのでした。

殺人よ、こんにちは―赤川次郎ベストセレクション〈7〉 (角川文庫)

殺人よ、こんにちは―赤川次郎ベストセレクション〈7〉 (角川文庫)

蛇にピアス (集英社文庫)

蛇にピアス (集英社文庫)

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